1000円誰にスパチャする?(Vtuber短編小説)

※この小説はジョークであり、実話ではありません。悪意もありません。




1人の青年がVtuberを眺めていた。彼は幸いにもクレジットカードが手元にあり、必要であれば月に1000円を振り込めるだけの生活的余裕があった。しかし、一向に彼はVtuberに支援が出来ずにいた。数日、数十日考え抜いても、結局彼はスパチャも出来ずにいた。苦悩の末、彼はツイートする。

「これから1000円をスパチャしようと思うのですが……誰にあげればいいでしょうか。推しが多くて困る」

すると……すぐさまツイートにいいねが付いた。

【1,000円? 良い心がけだ。しかしスパチャ目的なら、それを200円5回に分ければいい。沢山コメントとか感謝の言葉ももらえるぞ。お勧めだ!】

【1000円で草。そんな金あったら俺は次郎か家系で美味いもの食うわ。1万円以上スパチャするの奴らよりはいいけど】

【1000円か。FANBOX開設しているVtuberなら、そっちに投げるといいよ。還元率はかなり高めだから】

好意的なツイートが多く、青年は改めてVtuber界隈あったけえ…と感じていたがそこに、風雲急を告げる攻撃的ツイートが混じる。



【1000円とかいいなー。俺そんな金ないよー。金出せますアピールですかー? そうやってVtuberの気を引こうっての嫌いだね】

「く……、クソリプだああああああ!!!?」

青年はベッドにひっくり返った。ツイッター歴1年。細々とファン活動をしてきた青年は、初めて受け取ったクソリプに、一種の感動を覚えた。

「俺そんな金ないよって貧乏アピールからの【「下から」上から目線】とか! 恥ずかしい! 俺だったら二秒でツイ消しするところをこいつは1分経っても残しているぅ! こいつぁ本物だぜええええ!!!」

以後も何かつぶやいていたが、青年はすぐさまクソリプマンをブロックした。
しかし、このツイートは呼び水であった。クソリプではないが、唇をかむほど悔しいリプが青年の前に立ちはだかる。

【1000円。少額ですね。男なら月に1万円以上、推しに貢ぐものではないのかね?】

「ふ……、富豪だあああああ!!!!?」

青年は高反発マットレスのベッドに仰向けで飛び込んだ。ツイッター歴1年。時々アズールレーンを起動しながらもファン活動に勤しんでいた彼の目の前に現れた、重課金ファン。スパチャで緑以外のカラフルな色彩でコメント欄を彩る、「お前の財布は四次元ポケットか?!」と呼ばれるファンだ。

「確かにあんたらに比べれば少額だけどさああああ! 塵も積もればってあるじゃああああん!! ほら、俺が毎月1000円出したら一年で1万円と二千円だから愛したっていいじゃあああん!!!」

その時富豪は、12万円以上を支援していることに目をつぶって青年は吠える。以降もファンの嗜みだのなんだの講釈を垂れていたので、青年は彼をミュートにした。耳と心がいたくなるのだ。

二度あることは三度ある。

【月額1000円とか1万とかで威張り過ぎで草。毎日五万の俺の敵じゃないね】

「せ……、石油王だああああああ!!!!!!!?」

青年はマットレス下に隠している推しのブロマイドを労わる気持ちを忘れずに肋骨から飛び込んだ。ツイッター歴1年。学業は疎かにせず課題も完璧の代償に、深夜配信出席率0ながらファン活動に勤しんでいた彼の前に現れたのは、スパチャで鉄血色のみをたたき出す異次元財布の持ち主、通称石油王だった。

「あんたらの支援で今日も推しが飯食えてます本当にありがとうございますって言いたいけど、言ったら負けな気がする!! 人間として決定的に格を付けてしまう気がする!!」

その後も職業はトレーダーだのなんだの偉そうなツイートをしていたので、青年は石油王をブロックした。単純に負けを認めたくなかったからだ。

流石に石油王が来た以上、これ以上はないだろう。青年は安堵したが、上には上がいるものだ。

【金なんか誰でもいくらでも積める。けど、私が磨いたこの絵の技術は負けない】

「え……、絵師様だああああああああ!!!!!!!!!!?」

青年は空中三回転半捻りを試みたがものの見事に失敗してマットレスに落下。ツイッター歴1年。どんな界隈であっても、そこの魅力を瞬時にすっぱ抜いて分かり易く広める技術を持つのが絵師である。拡散能力はスパチャよりも高く、絵師が数人付いたVtuberはほぼ例外なく人気者だ!

「あなたたちのおかげで今の推しとかあの時の推しとか色々知りましたありがとうございます! そうですよね! 皆違って皆いい!! あなた様の技術は本物だって知ってますって!!!」

これを機に仲良くなりたいとフォローした青年は、少しばかり絵師の過去作を漁ってみた。どれもハイクオリティでほっくほくだった。




「……うわぁ、何だか凄いことになっちゃってるぞお」

色々と反応をしている内に、インプレッションは跳ねあがり、議論が過熱していく。炎上ではないが、この熱の発生源はまさしく自分だ。ブロックした輩やミュートした輩たちが、皆誰かに噛みついていたりして新たなる闘争を求めている。Vtuber界隈は以前よりも広がったものの、まだまだ狭い。1つの話題が燃え上がれば、そこに我先にとお気持ち表明ツイートをかましていく。はやりごとがあれば真っ先に飛びつく。それはまさに、刹那を生きるVtuberであった。

「どうしよう。どうしよう、ツイ消しとかしたくないけど、これが白熱しすぎたら、あ、……Vtuber界隈崩壊の危機……!!?」

しばしば多くの方々が言う「Vtuber界隈崩壊説」だが、一個人だけで崩壊するほど脆すぎる代物では既にない。これは青年の思い上がりである。

クソリプや質問とは違う趣旨のツイートが沢山くる中、救世主はいつだって最後に現れるものだ。

【みんな。仲良くしないとブロックするぞ☆】

「お……、推しだああああああああ!!!!!???」

青年は……あまりのショックに倒れることも出来なかった。
ツイッター歴1年。80万人ものフォロワーを持つ大人気Vtuberからリプされるのは初の経験であった。
推しの同接2万人RTA配信は、多くの者に感動を与えていた。

そんな青年の最推しがただ一言、そのツイートをしただけで、クソリプマンも、富豪も、石油王も、絵師も、押し黙った。フォロワー80万人の威力は凄まじかった。

「こ、これが……大人気Vtuber……」

ありがとうございます。ありがとうございます。と拝んで、馬鹿なツイートをしたものだと青年は謝罪ツイートをし、事態は沈静化した……が。

【ちなみにその千円は、君の娯楽総資産だと見た。そういうお金は、大事に自分で使いなさい。君がそうやって日々無事に生きていった先に、良い所に就職して1000円スパチャしても痛くもないくらい給料もらえるようになったら、その時私にスパチャしてくれると嬉しいな♡】

「あ……あああああああ女神様あああ!!!!!」

DMという特別な場所に置かれた最推しからのツイートは、青年の涙腺をどツキまくった。

ツイッター歴1年。大学生歴3年。青年は真夜中だというのに、それまでやる気のなかった就職活動への意欲を示した。いつか、大量のスパチャを推しに贈るため、推しが活きている間に就職しようとガムシャラに調べ始めた。

「あんたさっきから五月蠅いわああああああ!!!!!」
「ああああ深夜にごめええええええんん!!!!!」

この青年のサクセスストーリーには山も谷もあるのだが、それはまた別のお話。

(了)

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